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フレットレスベース考

フレットレスベースが好きです。

フレットレスとの出会いは高校1年、本屋で立ち読みした「ベース・メインテナンスブック」。メンテに関する本ながらフレットレスへの加工方法も簡単に紹介されており、それを見て「自分にもできるな」と思ったのです。
当時まだベース歴は半年足らずで、軽音楽部でTAB譜のバンドスコアを見ながらバンプやアジカンやエルレガーデン(時代を感じる!)を演奏する毎日。新しくエピフォンのサンダーバードを手に入れた直後で、最初に買った安物のジャズベースの用途がなくなっていたところでした。

本屋から帰り、さっそくジャズベースをフレットレス化。これがすべての始まりでした。

メンテブックのフレットレスの項目には代表的なフレットレス奏者としてジャコが紹介されていました。もちろんジャコなんて知らなかった自分は、自分のベースをフレットレスに改造した後に「フレットレスのベースを弾くジャコって人がいる(いた)らしい」と知ったのです。普通はジャコを聴いてから「なんだこの音→フレットレスベースっていうのか!」ってなるものだと思いますが自分は完全に逆パターンです。
そこで定番らしい「HEAVY WEATHER」やら「ジャコ・パストリアスの肖像」を聴き、衝撃を受けてジャズ・フュージョンに目覚めるーーとなりそうなところですが、音楽の素養もない、楽器を弾き始めて半年の自分には何も理解できず、しかし理解できないながら「ジャズ聴いてる俺って格好いいぜ」っていう、不純な、まあその年頃ならではのメンタルで頑張って聴いてました。ちょうどyoutubeが出始めたくらいの時期でしたから、ジャコはもちろん、Alain Caron やら Gary Willis やらフレットレスの名手の演奏を、やはり理解できないながらも観てはいました。演奏よりも f-bass のボディシェイプの美しさに心を打たれたり、GWBに憧れてフィンガーランプを自作したり…。
とはいえ高校の部活で演奏するのは邦ロック一辺倒で、フレットレスベースは運指練習に使っていました。当時は4フレット4フィンガーこそ至高で、常にそれを守るべきと考えていたので、毎朝学校に行く前にフレットレスでクロマチックスケールを弾くのが日課でした。相当気持ち悪い高校生ですが、フレットレスできちんと弾ければフレッテッドに戻ったときに非常にラクになったので、当時の練習としてはまあ有効だったと思います。
そういう「運指矯正器具」というやや不遇な位置づけをフレットレスに与えたまま、しかしジャズ・フュージョンの偏った知識や漠然とした憧れを抱きつつ、高校を卒業します。

さて大学です。ジャズサークルに入りたいと思いながらフラフラしてたら怪しいサークルの勧誘を受けました。
「音楽やろうぜ!何が好き?」
「ウェ、ウェザーリポートとか…」
「じゃあうちしかないよ!!!ようこそフュージョンマニアに!!」
で、観に行ったら f-bass AC-5 を使ってるT先輩がいて、入会を決意。「それ、アランキャロンモデルですよね?」って言ったらメチャクチャ喜ばれたのをよく覚えてます。
それでもしばらく自分にとってフレットレスは運指矯正器具にすぎませんでしたが、T先輩の「誰かフレットレスの後継者はおらんのか」という発言を受け、フレットレスにシフトすることを決意します。
まずちゃんとしたフレットレスが必要と考えてbacchusのフレットレスジャズべを手に入れますがこれがどうにもダメダメで、欲しい音がぜんぜん出ないのです。いま思い返しても不思議で、楽器全体の部品や組み込みのバランスの問題だと思いますが、たぶん決定的にダメだったのはエボニー指板だったことだと考えてます。今日に至るまで色々弾きましたが、いまだにエボニー指板のフレットレスに良い印象がない。。。
そこで迷わず、当時メインにしていたフェンジャパのジャズべをフレットレスに改造。ローズ指板にアッシュボディ。ここで自分の楽器の好みが決まった気がします。
そうして「フレットレスを弾く人」と同時に「フレットレスに改造する人」キャラを確立し、周囲の人のサブベースをフレットレスに改造しまくる日々が始まります。演奏以上に改造が好きでした。晴れて自分にとってのフレットレスベースは「運指矯正器具」から「フレッテッドから改造するもの」へと格上げ(???)します。とはいえもちろん頑張って演奏もしてるわけですから、自分の感性も徐々に追いついてきて、フレットレスの音を魅力的に感じるようになってきます。

そんな中、自分に大きな衝撃・感動を与えた音色があります。Pat Metheny の Last Train Home で使われているエレクトリックシタールの音色です。フレットレス的なミョンミョンサウンドに魅力を感じ始めていた自分にとって、その音はあまりにも魅惑的に響きました。そして何とかその音が自分でも出せないものかと試行錯誤を始めます。

余談も余談ですが、どこかのブログがメセニーのエレキシタールをフレットレスギターと間違って紹介していました。まあわかります。シタールの音色とフレットレスの音色は原理的には近いもので、点でなく線(面といった方が直感に近かろうと思いますが面の上に円柱である弦が乗っているのでやはり線です(ラウンドワウンド弦なら巻き線が接するわけですから線ですらなく複数の点(うるせえよ)))で支持された弦が振動に伴いビリつくことであの独特のミョンミョンサウンドが得られます。邦楽器の言葉で言うなら「さわり」というやつです。さらに語源をいえばシタールのブリッジは「ジャワリ」というそうで、これが語源とする説が有力です。

ともあれ、そのエレキシタールの音をキッカケに自分のフレットレスの音を積極的に見つめ直したのです。弦高やネックのリリーフによる音色の変化をあれこれ試し、楽器の基本調整への理解も深まりました。そしてバランスよくビビりが出るフレットレスベースをピッチシフターに通し1オクターブ上げればエレキシタールにほぼ近似と言っていい音が得られることを発見し、さらに演奏にのめりこんでいきます。
同時期に頑張って聴いていたのはボナのフレットレスで、やはり低めの弦高で積極的にビビらせた音色でした。(今にして思えば弦高の低さが必ずしも本質ではなくてピッキングとの兼ね合いだと考えられますが、当時の自分の弾き方だったら弦高を低くすることが得たい音を得る有効な手段だったんだろうと想像します)

どうやら自分は楽器への理解や興味が増すことで音楽を受容できるようになるタイプのようで、この頃にようやく、今まで理解できないまま格好つけて聴いていただけの音楽を、きちんと受け止められるようになってきました。
というか根本的なとこを言えば音楽そのものに本質的な興味はなくて、現象としての音が好きなだけとも言えそう。現象としての音に触れるために合理的で都合のいい場が音楽なんだろうなー。

フレットレスがもつフレッテッドとの最も大きな違いは、常に音がビビってることだと思います。で、それが弦高やリリーフやピッキングの位置・方向・強度に追随して変化する。もちろんフレッテッドでも追随して変化はしてるんだけど、フレットレスの方がビビりの変化として観測しやすい。そういう現象としての楽しみやすさ・制御している実感が自分がフレットレスにハマってる理由なんだと思います。

フレットレス化をはじめ色々と楽器の改造・調整・修理を行うようになり、件のT先輩が「これあげるから、好きにいじっていいよ」と言ってベースを一本譲ってくれました。それが Status ネックの G&L です。もらった直後に何のためらいもなくフレットレス化し、カーボンネックのフレットレスの魅力にとりつかれていきます。カーボンネックの、というより硬質指板の、というべきかもしれません。指板材はフェノール樹脂で、音色特性としてはエポキシコーティングされたローズウッドに近いものだと感じます。

フレットレスの指板材、まあそれだけを取り出して語るのはなかなか難しいものですが、さっきも書いたようにエボニーには総じて良い印象ないです。ローズはまあ好き。コーティングあればなおよし。メイプルは触れる機会が少ないですが、好きです。
ローズはエボニーより柔らかいからラウンド弦を張るならコーティング必須という主張をたまに見ますが、コーティングなしのローズにラウンド張った楽器を数年間使ったけど全然問題はなかったです。問題になるレベルで傷がついたら自分で修正すればいいし…って、だから問題なかったのか。いやでもコーティングされてても傷がつけばやはり修正は必要だし、結局変わらないのでは。コーティング有無で音色は変わるので、判断の根拠にすべきはそこでしょう。
エボニー指板で気持ちいいフレットレスっていうとペデュラくらいです。そもそもスルーネックのフレットレスも苦手なんでペデュラだけ自分の中でいろいろ例外の存在。すげえぜペデュラ。

スルーネックのフレットレスも自分はダメですね。苦手。周波数のピークが変なところに来る感じだし、減衰も気持ちよくない。慣れの問題と言われればそれまででしょうが、どうもスルーネックフレットレスは弾いてて「間違ってる」感が拭えないです。


と、フレットレスとの馴れ初めから、フレットレスに対して感じることを、まとまりなく書き綴ってみました。楽しい。

中盤にも書いたように、楽器の状態や演奏の違いが露骨に音に出るところがフレットレスの魅力だと思います。これは上手に扱わないといい結果が得られないということであり、そういう面倒くさい道具を自らの能力でもって上手に扱う、というのが、楽器演奏に限らず自分の好みのようです。

フレットレス特有のミョンミョンサウンドが自分の好みであるのは間違いないですが、いっぽうで、弦振動を的確に制御しきって、フレットレスであることを全く感じさせない、ただただ正しいベースとしての機能を持った音を出したいという目標も今はあります。
負わなくてもいい負担を負い、越えなくていいハードルを頑張って越える。
そういうのって、楽しいですよね。
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コメント

ブログ再開とっても嬉しく感じています。

フレットレスベース取り憑かれたのが2年ほど前


「フレットレス難しいなぁ。そうだ!たりきさんのブログを見て参考にしよう!」

その頃はすでにブログが消えていて落胆しました。ブログの復活、心から喜んでいます。

復活1回目の記事がフレットレスに対する熱意
思い思いに書いていて読み応え満載で楽しくブログを見せて頂くことができました。

僕のベースヒーローはDoomの故・諸田コウさんで、ステンレス指板やアルミ指板に猛烈に憧れを持っているのですが、頼んでも作ってくれるところがありません。

諸田さんのソロ作品はフレットレス好きにはたまらない作品なので、もしお聞きした事がないのでしたら聞いて頂けると嬉しく感じています。



http://www.nicovideo.jp/watch/sm4627350

Re: ブログ再開とっても嬉しく感じています。

ありがとうございます。諸田コウさんはあまり頑張って聴いたことがありませんでした。ご紹介ありがとうございます。
ただステンレス指板には自分も憧れがあり、ホームセンターに売られている粘着テープつきステンレスシートを貼ったフレットレスを製作してみたことがあります。すぐ剥がれましたが…。ご本人のものは工業用の非常に強力な両面テープを使用してるらしいという話を聞きました。

お返事ありがとうございます。

お返事ありがとうございます。

「頑張って聴いたこと」というコメントに笑わせていただきました。やはり頑張らないと聞けない音楽なのかーと再認識しましたw

ソロの方はDoomのようにうるさくありませんし、変拍子も多用していないので、よければ一通り聞いて頂ければと思います。


ステンレス指板はやはり難しいのですか。

本人のものも、マンションの外壁などを貼り付けるような両面テープみたいですね。

10年以上前ですが、PGMがステンレス指板のベースを作成しており、両面テープではなくステンレスを折り曲げ、ネック側面のバインディング辺りに切り目をいれ、そこにステンレスを挿し込み加工されていました。

余りにも大変な工程だったため、もう二度と作りません。と、当時ホームページで見たことがあります。
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プロフィール

たりき

Author:たりき
2016年まで「たりきこうぼう」としてギター・ベースのリペアを承っていました。
現在は PLEK JAPAN 勤務。私個人ではご依頼を承っておりません。

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